抗菌薬の有効使用バンドル2015


 救急・集中治療領域の病態は,全身性炎症病態を基盤とするため,① 好中球やリンパ球の機能が低下していること,② 輸液負荷状態にあること,③ 腎機能が低下すれは持続濾過療法を併用することに留意する。抗菌薬の使用においては,原則として殺菌的使用として,以下の※印を遵守する。抗菌薬を使用する場合には,効果を期待できる適切な方法として薬物動態学(Pharmacokinetics, PK)と薬力学(Pharmacodynamics, PD)を理解し,評価した投与法とする。EMICUにおいては,初日の抗菌薬投与量は現行のMAXとし,以下の薬物を使用する限り,管理初日に腎機能を考慮して抗菌薬投与量を減量させていはいけない。 (文責 教授 松田直之)

■ 抗菌薬投与に先立って,①血液培養検体2セット以上,②疑わしき部位の検体を提出する。
■  EMICUでは,感染管理を徹底しており,感染制御部と連携して,月単位,6ヶ月単位,年単位でICU起炎菌の解析を施行している。その情報に基づいて,抗菌薬は殺菌的使用とし,多剤併用を原則とする。救急科医は,必ず,EMICU細菌管理情報と管理の動向をチェックする。
■ 抗菌薬の希釈は,中心静脈路から投与する場合は,原則として生理食塩水20 mLとする。末梢静脈路から投与せざるをえない場合には,生食50 mLとする。
■  希釈の例外としてジスロマック®(アジスロマイシン)に注意する。ジスロマック®は,注射用水4.8 mLに溶解した液(濃度100 mg/mL)を,さらに5%ブドウ糖注射液で注射溶液濃度1.0 mg/mL(あるいは2.0 mg/mL)に希釈して,計500 mL液(あるいは250 mL液)とする。このため,1回投与の輸液量が増加してしまう欠点がある。ジスロマックを使用する際には,胃管やEDチューブを用いた内服液とすることをEMICUでは推奨する。
■ ディエスカレーション(De-escalation):当講座で作成した免疫管理バンドル(救急科勉強会)および細菌培養検査の結果に基づいて,多剤を1剤,あるいは広域を狭域などにディエスカレーションする。しかし,抗菌薬の特性として組織移行性および効果性を,朝夕のカンファレンスで討議して,ディエスカレーションの可否を評価する。
■ 菌による全身性炎症と再評価できない場合,また,自己免疫で対応できると評価された場合には,抗菌薬はSTOP(STOPストラテジー)とする。
■ 予防的抗菌薬(術後,ドレーン挿入)(一般:セファゾリン,下部消化管:セフメタゾンなど)は,最大で第1病日までとする。
■ 敗血症性ショック,重症肺炎では,治療開始時から抗MRSA薬(テイコプラニン)をゾシン®あるいはカルバペネム(フィニバックス®)に併用することを原則とする。以上において,第2病日移行,抗菌薬の適正評価を上述に基づいて継続する。
■ 市中肺炎(疑)では,MRSA薬(テイコプラニン),カルバペネムに,ジスロマック®を併用し,3剤併用療法とする。
■ ウイルス感染が疑われる場合,グロブリン分画の検査提出後,静注用グロブリン製剤(IVIG)5g 3日間を考慮する。

A. 抗MRSA薬・抗MRSE薬・グラム陽性菌(ES対策)

 EMICUにおける抗MRSA薬の第1選択は,テイコプラニンとする。腸球菌(E),ブドウ球菌属(S)に対しての補助薬とする。テイコプラニンの使用については,MIC 2μg/mLに対して殺菌効果の期待できるトラフ濃度 20〜17μg/mLを目標として,2003年に松田が開発したPK/PD法 Rapid Priming of TEIC(RAPTE)を用いる。バンコマイシンは,①ICU患者の腎傷害を誘発する可能性,②MIC 2μg/mLの株に対して効果的でない可能性の2点より,EMICUでの使用を禁止とする。ブドウ球菌の毒素産生株については,呼吸器系感染ではリネゾリド,呼吸器以外の血流感染と軟部組織などではダプトマイシンあるいはリネゾリドを選択する。

■ 第1選択 テイコプラニン(TEIC):
Rapid Priming of TEIC(RAPTE)は,テイコプラニンの蛋白結合率が90%と高いことを考慮した初期の血中濃度維持のための急速プライミング法であり,2003年に松田のコンピュータシミュレーションにより開発された。現在,推奨するRAPTE2は,テイコプラニン10 mg/kg/回を8時間毎に計4回投与する方法である。5回目は4回目投与から24時間後に投与し,以後,24時間毎の1時間での投与とする。目標TEICトラフ濃度は20 μg/mLである。5回目からの1日1回投与では,腎機能Ccrに合わせて,1回投与量を8 mg/kgを最大投与量として修正する。体表面積補正Ccr 50 mL/分であれば,半腎機能と評価して,1日投与量を半減し,4㎎/kg/日とする。
【例】体重60kgの場合,600mgを0:00,8:00,16:00,翌日0:00に投与し,その後,翌々日0:00に600mg投与する。(この5回目の投与の2時間前にTDMを測定し,その後の投与量を調整する。)以後,毎日0:00に維持量を1日1回投与とする。また,現行のPMMA膜を用いてCHFを併用している際には濾過1L/hの1日量に対して1mg/kg/日のTEICは排泄されるので,この分の補充とする。

■ 第2選択 毒素産生ブドウ球菌 39℃を超える発熱の持続に注意する。
呼吸器感染 リネゾリド:ザイボックス ®600 mg+生食 50 mL 1日2回投与
呼吸器以外 ダプトマイシン:キュビシン® 6-8 mg/kg(重症例)を50mg/mLとして生理食塩水で希釈して,2分間で静注する。点滴静注とはしない。


B. グラム陰性菌(KAPE対策)

 クレプシェラ属(K),アシネトバクター・バウマニ(A),緑膿菌(P),エンテロバクター科(E),大腸菌(E)などに対して,EMICUではESBL産生株,多剤耐性株に注意して,感染症治癒の管理としている。このための初期に使用する抗菌薬は,殺菌性の強いものとし,①ゾシン,②フィニバックスを2015年度の主なKAPE対策抗菌薬とする。これらは,薬剤部(宮川先生,坂井先生)に血中濃度測定を依頼し,ピーク濃度とトラフ濃度を測定することを原則とする。救急・集中治療領域の患者さんでは,急性期の循環と利尿の維持のために輸液負荷量が増大するため,ペニシリン系薬やカルバペネム系薬の分布容積が増加し,血中濃度が上昇しにくいため,MEIDAI救急科では薬剤部と連携して,治すことを目標とした適切な抗菌薬濃度を維持できるようにTDMを施行し,抗菌薬血中濃度をモニタリングしていく指針とする。

① ゾシン®:腎機能や老齢に関係なく,初日は1回 4.5 g + 生食 50 mLを1日4回の投与とする。腎機能が正常な場合には,サザンクロス法を選択し,初回のプライミングを行う。

※ ゾシンサザンクロス法
1.30分でゾシン4.5 gを点滴静注する。
2.その3時間後から3時間かけてゾシン4.5 gを点滴静注する。
3.3時間休む。
4.3時間後から3時間かけてゾシン4.5 gを点滴静注する。
このように,ゾシンを初回プライミングし,3時間での投与を6時間毎に行う。これによりトラフ濃度が,30 μg/mLレベルに維持でき,MIC 4 μg/mLレベルのESBL産生株にも対応できる。ピークとトラフの血中濃度をモニタリングする。

② フィニバックス®:腎機能や老齢に関係なく,初日は1回 1 g + 生食 20 mLを1日4回以上の投与とする。CHF(QB 150 mL/分,QF 30 mL/分)の条件では,この投与量の約8割を除去できる。


C. 非定型肺炎対策

 市中肺炎として救急外来を経由した管理の場合,非定型肺炎を念頭に置いて,ジスロマックあるいはキノロン系薬を併用する。キノロン系薬では,クラビットを①希釈液量の少なさ,②抗菌活性の2つの理由で第1選択とする。

静注用ジスロマック®
a. 中心静脈路を使用する場合
ジスロマック®点滴静注500 mg + 5%ブドウ糖 約250 mL   計250 mL
(1時間での投与)
b. 末梢静脈路しかない場合
ジスロマックr点滴静注500 mg + 5%ブドウ糖 約500 mL   計500 mL
(1時間での投与)
※ 静脈投与は容量負荷となるため,ジスロマック®は,胃内投与を検討する。

② クラビット®
クラビット®点滴静注液500 mg(20 mL)+ 生食50 mL  計70 mL
(1時間で投与)


D. その他の留意抗菌薬

メトロニダゾール(商品名アネメトロ点滴静注液®500 mg)
アネメトロ点滴静注液® 500mg(100 mL) 計100 mL
(1時間で投与


指針設定
名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野 
2015年4月1日〜 東 倫子・田村有人(外来医長)・松田直之(EMICU部長)
2016年4月1日〜 東 倫子・海野 仁(病棟医長)・松田直之EMICU部長






センター連携教育体制